材料破壊

広瀬幸雄 

新しい材料や加工法が開発され,それぞれの目的に応じて実用されていますが,未だそれらの部材の損傷・破壊事故が後を絶ちません.これらの破壊・損傷の原因を調査し,材料,加工法,使用法の改善に役立てることはいつの時代でも重要であり,このような調査を繰り返すことにより現代の工業は発展してきました. 材料の破壊は,材料,応力,環境の三つの要素からなっています.したがって,破壊の原因はこれらの要素間の関係を明らかとすることにより,はじめて得ることができます.つまり,三つの要素について,以下に示す詳細な状態調査が的確な原因の推定を可能にします.

材料:表面・破面の状態,内部構造・組織の状態
応力:残留応力,静的・動的応力の状態
環境:気相,湿潤相,液相,温度等の状態

例えば,表面・破面から原因を推定する方法についてお話しましょう.

破壊した材料の表面には,その材料が破壊に至るまでの直接の証拠が記録されており,それを詳細に観察することにより,破壊の過程を推定することができます.フラクトグラフィとは,実際の破面を実験的に得られた破面(フラクトグラフ)と比較評価することで,その部材の破壊過程を推定する方法です.材料の破断面には,破壊の進行状況を示す特徴的模様が残されており,これを走査型電子顕微鏡(SEM;scanning electron microscope)など使って調べることによって,破壊機構や破壊の原因に関する重要な情報を得ることができます.こうして得られた結果は,破損事故を繰り返さぬよう対策を立てるために有意義に用いることができます.

このような,フラクトグラフィを応用した研究例に,10年前に発生した日本航空ジャンボ機墜落事故を挙げることができます.この事故調査に当たった研究団体は,フラクトグラフィの観点から圧力隔壁が疲労破壊(材料が繰り返し応力を受けて,破壊すること)したことを突き止めました.研究成果は,二度と悲惨な事故を起こさないよう大きな役割を果たしています.

ところが,SEMなどを使用した,いわゆる目で見るフラクトグラフィーでは,破面そのものから分析するという本質から,破面表層の酸化や摩耗などのために破壊時の原型が保存されていないときや,破壊形態が無特徴であったり,他の破壊形式と類似している時などは,必ずしも定量的解析が成功するとは限りません.

私共の研究室で精力的に行っているX線フラクトグラフィは,X線回折法を破面観察に使用することにより,破面近傍の組成変形量,塑性域あるいは残留応力などの情報が得られ,このような破面に対しても,従来のフラクトグラフィと同様もしくはそれ以上の成果をもたらすことができるようになりました.

次に材料破壊と応力との関係ですが,上記にて少々触れたように,これら二つは切り離して考えることはできません.

最近では,コンピュータの情報処理能力も格段に進歩し,部材の応力状態を,より現実に近いバーチャルな世界でシミュレートすることが可能となりました.有限要素法(FEM;finite element method),境界要素法(BEM;boundary element method)といった数値解析法は,航空,自動車など,あらゆる産業界で頻繁に用いられるようになり,今や無くてはならないものとなりました.

最後に材料破壊への環境の寄与についてお話ししましょう. 材料が破壊される例として,応力腐食割れ(SCC;stress corrosion cracking)があります.応力腐食割れは,「応力と腐食の共同作用によって引き起こる金属の脆性破壊」と定義することができます.SCCが起こる場所としては,原子炉の圧力容器や配管などが挙げられます.このような場所では,部材の損傷は絶対に起こってはならないため,これと同様の環境を研究室内に作りだし,破壊過程の詳細な調査が行われています.このような研究は,原子炉の事故を未然に防ぎ,原子力を安全に使用することに一役買っていると言えます.

以上,材料破壊について簡単に述べてきましたが,材料がある限り,私共の研究は永遠に続くと言えるでしょう.


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http://cmpsci.s.kanazawa-u.ac.jp/~actrep/98/es.hirose.html
Last modified on Oct. 27, 1999.